正視眼では見えない中国(7)
私は中国・上海に1998年から1年間だけアメリカ企業の駐在員として滞在していました。
その時見聞した奇妙なことを書きます。
今でこそ誰でも知っているDVDプレーヤー、当時アメリカでも珍しい物でした。
ビデオより画質が良いとか、音質がクリアとかでだんだんと普及し出したところでした。
ある日、友だちの祭さんが「うちでDVD見ないか?」と聞いてきました。
新もの好きの私は「見る、見る」と即答しました。
彼の住んでいる地域は知っていましたが、実際、どんなとこに住んでるのか知りませんでした。
住所を聞いて、指定時間に彼の家に向かいました。
蔡さんは東京6年ほどいて「オレ、親分の運転手してたんだ」と上手な日本語で以前話してました。
なんでも留学目的で東京に行って、日本語学校へは行かず、築地市場で「ネコ」使ってたんだそうだ。
「ネコ」って「ネコ車」のことで、ま、世間で言う台車のような物。
日本語がうまいような、下手なような、耳で覚えた日本語でした。
で、彼のくれた住所に行くと、マンションではなく、古っぽい中国式長屋「里弄(りろん)」」ではないですか。
上海市の中心部と旧市街地の中間くらいのところにあって、たくさん並んでいるんだけど、開発のため次から次と壊されていました。
「里弄」前で待ってた祭さん、迷路のような建物の中に案内して「オレんち、この先奥なんだ。オヤジと一緒に暮らしてるんだ」と説明しました。
薄暗く、陰気臭い土塀で囲まれた大きな土間のようなところで止まって「これオレんち」と中に入れてくれてくれました。
「親父は奥で寝ているから気にしなくていい」と言い、薄暗い部屋というか穴蔵というか部屋みたいなところのカーテンを閉め切りました。
土間というか食堂というか、訳のわからない大広間のテーブルの上にそのDVDプレーヤーなる物を設置したではありませんか。
靴は履いたまま、片隅に大きな壺(おしっこするため 馬桶マートンと呼ばれていました)があって、それこそ時代を間違えた空間でした。
「台湾から手に入れたアメリカ映画だ。日本語版だぞ」と自慢しました。
私はそれより時代錯誤にびっくり。
「里弄」で近代的なDVD?
題名は「真実の嘘」、ロサンゼルスでもう見た映画「True Lies」。
シュワちゃんとジェイミー・リー・カーティスが出たアクション・コメディー。
土間に置かれた小学校の教室なような椅子に座り寒さを堪えて見ていました。
「映画もいいけどさ、おしっこしたいんだけど?」と祭さんに言うと、マートンを指差し「それにしろ」と言うんです。
DVDの世の中ならば水洗トイレだろ、と言いたかったですが、我慢しきれず仕方なしにマートンにジャー。
映画に出て来たキーウエストには行ったことがあるので、親しみを覚えたのですが、どうも薄暗い「理弄」には馴染めませんでした。
「台湾製のDVDってよくないな」と言っては画像の乱れ(例の小さい四角が乱れる物)のためDVDプレーヤーを止めます。
「文句言える義理じゃないだろう」と内心思いました。
当時まだ日本でも中国でも珍しかったDVDプレーヤーはちゃんとした(購入した、と言う意味)ソニー製だけどDVDは台湾からの海賊版なくせに。
一応、見終わりましたが「里弄」と言う超旧式の中でDVDという超近代的なもののアンバランスを体験した一夜でした。
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